先日、朝日新聞のWEB版にこんな記事が載っていた。
少しだけ引用させて頂く。
「師匠の吹いた後、楽器自体の音が変わる? 謎の現象を検証実験」
管楽器を演奏する人たちの間で広がっているという、まことしやかな「言い伝え」がある。「自分の楽器を、上手な人が吹いた後に演奏すると音が著しく変わる」。果たしてこんな現象は実際に起きるのか、国立音楽大(東京都立川市)の三浦雅展准教授(音楽データサイエンス)が検証に挑んだ。
実験そのものはシンプルだ。実験ではクラリネットを使い、学生が自分の楽器を吹いた後、達人が同じ楽器を吹き、再び学生が最初と同じように吹く。それぞれの音の波形を測定する。立ち会った三浦さんは驚いた。「耳で聴いて分かるレベルで音が変わった」。実際に波形も変化していた。
ただ、これだけで言い伝えは本当だったとは断定できない。学生が模範的な演奏に影響されている可能性があるからだ。
そこで、次の段階として指導者の演奏時に学生がいないようにしてみた。それでも学生の音は変わった。実験そのものに心理的な影響を受けた可能性もある。今度は指導者が実際には演奏せずに、学生が再度吹いてみた。すると、音は変わらなかった。
(朝日新聞WEB版 連載 すいエンス 吹奏楽を科学する2026年8月21日より引用)
……どうして音色が変化するのかという科学的に調査した結論はまだ研究段階らしい。
この話、以前自分も前々から聴いた話で、同業の管楽器奏者とこの話題になったこともあるし、楽器店で楽器選定をした時に「先生が吹かれた楽器はなぜかよく鳴りますね」と言われたこともある。
まことしやかに世間で言われている俗説?を列挙。
1.楽器を吹くときはかなりの温度、湿度を持った息を楽器に送り込む。楽器をうまく吹く人はこの変化が急激でそれにより管が暖まり、振動しやすくなるのではという説。
いわゆるその楽器のツボをつかまえると鳴るようになるのではという考え。
2.管楽器は製造加工する過程で金属を曲げたり叩いたりするので、一定のストレスがかかる。これを残留応力というのだが、楽器をうまく吹く人の息は、これを分子構造レベルで変化させているのではという説。
分子構造レベルと言われても顕微鏡?で見たことがないのでわかりませんが、自分的には2がもっともかなと思う。
というのも、先ほどの残留応力はフルートを吹き込んでいく過程で何年もかけてストレスが段々無くなり、楽器が鳴ってくるようになる。(最近の管楽器の製造過程では加工する上で発生する残留応力そのものを音響焼鈍という、熱処理(いわゆる焼きなまし)をしたり、あるメーカーにいたっては冷却処理したりして最初から楽器が鳴るような状態にしているものも多い)
もっとも、新しい楽器は自分の息でもって徐々に鳴るように使っていくというのが楽器を吹く楽しみだと自分は思うのですが。
因みに、上手い人が吹いた後が楽器がよく響いているという効果は非常に短時間で5分くらいしかもたないらしい……。
これと似たような話で、フルートの素材(金、銀、洋銀、木製)によって音色は聴いている人に聴き分けられるのか?という話が出る。
かつてカーテンをして吹き手が見えない状態で素材による吹き分けをして音色の違いは聴き分けられるのかという実験や、吹き手が素材による違いを感じているのかというアンケートをされたこともあるが、結論、音響学的には素材による聴感の差はないそうである。
ある管楽器開発にも関わっている研究者によれば、私たちが「音」として認識しているものは、純粋な聴覚情報だけではない。楽器を手で支える時の重さの感覚(触覚)、キーを押す指先に伝わる振動(触覚)、息を吹き込む唇の感触(触覚)、そして楽器の見た目、つまり「自分は今、金色の楽器を吹いている」という視覚情報…こうした耳以外の情報すべてが統合されて、最終的な「音の聞こえ」として知覚されているのではないか…という仮説もある。
いつだったか、世界的プレーヤーのG氏が使用していた楽器が3本、海外の楽器オークションに出品されたことがあった。
中古楽器というのは管楽器の場合、使用年数、稀少性、地金やモデルでだいたい相場が決まるのだが、その出品されていた楽器はそのG氏が使用していたとかで日本の新品価格よりもかなりな額のお値段がついていた。
そのG氏の付加価値がついているからだとしても、ならば、その楽器を吹いたらG氏のような音がするのかと言うと、当然ながらそんなことはない。
付加価値があるからとその価格にしていることが何か眉唾ものである。
どんな素材の音を吹こうと、基本的には音色はその人独自のものだと思う。
金や銀、洋銀の楽器を吹いても結局は、その楽器のポテンシャルをその人が引き出せているのかが大事なのだ。
なので、きちんと調整されている楽器であれば洋銀でもいい音が出せます。
では金や銀の楽器を吹く意味っていったい………
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