レジェンドを聴く

先日、オーボエの巨匠、ハインツ・ホリガーの演奏会に行ってきました。

僕たちの世代で「フルートのスター」と言えば、やっぱりジェームズ・ゴールウェイ。その少し上の世代には、ニコレ、ランパル、グラーフといったまさにレジェンドたちがいて…。

自分が現代音楽をやるようなって、若い頃から何度もCDで聴いていた現代曲のスペシャリストでもあるホリガーは、まさに雲の上の存在。彼がニコレと共演している録音なんかは、学生時代は何回も聴きました。

 

レジェンドを生で聴かずして何を聴く。

 

プログラムは、20世紀ポーランドの作曲家ルトスワフスキの協奏曲、ホリガーは“吹き振り”というスタイルで登場。その後は現代曲2曲、そして後半はメンデルスゾーンを指揮。

 

個人的なハイライトは、やはり前半のルトスワフスキ。

 

譜面を見るだけでも難解な現代曲を、指揮しながらソロを吹く。しかも、マルチフォニック(重音奏法)といった精密なテクニックも交えながら、音楽は決して鋭利になりすぎず、しなやかで内省的な表現。

 

後半のメンデルスゾーンも圧巻。スツールに腰かけることもなく、86歳とは思えぬキレのある棒さばき。音楽が身体を通してほとばしっていて、まるでエネルギーの塊のよう。

 

目を閉じて聴けば、とても86歳の音には聴こえない。その存在感、エネルギー、オーラ。あれだけの密度で音楽を発することができるって、一体どういう身体と心の状態なのか……本当に興味が尽きません。

 

楽器を吹くというのは、年齢とともにどうしてもテクニック的には下降線を辿ります。それを“維持”するためには、実は“維持以上”のコンディション作りが求められる。昨日と同じことを、今日も同じようにやっていたら、実はそれは“後退”かもしれない。

 

ホリガーを見ていると、むしろ今もなお進化を続けているようで、恐れ入るばかりです。

 

──閑話休題。

 

レッスンで、大人の生徒さんから時々聞くセリフがあります。

 

「家だと、もう少し上手く吹けたんですけど…」

 

これ、僕にも心当たりがあって。人に聴かれていると緊張するし、楽器の吹き始めってなかなか調子が上がらない。身体もまだ固かったりしますよね。

 

なので、朝イチや練習前のウォームアップはとても大事。

指が硬いなら指、唇が動かないなら口周り……。それぞれの部位に声をかけるように柔軟さを取り戻していく。

 

音色はもちろん大切。でも、身体がガチガチなときにロングトーンを無理にやると、逆に緊張感が増してしまうことも。

 

だからこそ、ウォームアップの内容はその日のコンディションに合わせて“カスタマイズ”することが大切だと思います。

 

ただし、これは“日々続けていること”があってこそ。

 

継続しているからこそ、今の自分の状態に気づけるし、その日その日のチューニングができるんですよね。

 

ホリガーのように歳を重ねながら進化を続けられる音楽家を見て、改めてそう思いました。

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